前回までの連載でショートショート小説の書き方を一通り体験したので、今回はショートショート小説の代名詞ともいえる星新一氏の作品の構造を分解してみようと思う
田丸式メソッドのワークシートに当てはめたりしながら、作品の流れなどを追って構造を勉強してみよう
今回分解するのは、単行本『安全のカード』に収録されている『頭痛』という作品だ
ざっくりどういう話なのかは、以下のあらすじを読んでもらうと理解できると思う
あらすじ
フェーズ1:占い師との出会い
シーン1−1
駅のそばで占い師に声をかけられ、占ってもらうことにする
他人の苦痛を治す才能があると告げられる
どうやればいいか尋ねると、「とりあえず手をかざして念じてみては」と教えられる
フェーズ2:能力の発現
シーン2−1
占い師に告げられた才能を試してみる
同僚の頭痛がおさまる
シーン2−2
バーの女性に青年の能力の話をする同僚
女性もニコチン依存症が悩みなので治してほしいと持ちかけられる
また能力を試してみる
翌日、女性からお礼の電話が入る
フェーズ3:能力による社会的成功
シーン3−1
専務も左足の神経痛に悩んでいるという
青年の能力で治る
シーン3−2
大きな取引先の婿養子の浮気性を治してほしいと専務に頼まれる
青年の能力で婿養子の浮気はおさまり、商談はたちどころにまとまった
シーン3−3
フェーズ4:いい気になって他人を治しまくる
シーン4−1
他にもさまざまな症状の人たちを次々に治していく
シーン4−2
能力が消える様子はないので、安心して能力を使い続ける青年
フェーズ5:オチへの階段
シーン5−1
シーン5−2
「手に負えない被害妄想の患者を治してほしい このままだと殺人狂になりかねない」と相談される
青年は手を貸し、それはうまくいった
順調な日々が続いていく
フェーズ6:バッドエンド
シーン6−1
やがてこれまで治してきた人々の症状があらわれはじめた
いい気になって治してきた他人の症状が期間をおいて我が身にあらわれることに気づく
やがて重度の被害妄想に陥り、この悲劇の原因となった人たちに殺意を抱きはじめる
田丸式メソッドのワークシートに当てはめて考える
この『頭痛』という作品を前回までの連載で使用していた田丸式メソッドのワークシートに当てはめるとこうなる
- それはどんなモノ?
- 他人の苦痛を取り除く才能
- それはどんな良いことがある?
- 頭痛・神経痛・依存症などどんな症状でも取り除くことができる
- それはどんな悪いことがある?
- 他人の苦痛は消えるのではなく自分に移ってしまう
ある期間をおいて症状があらわれるため気付かない
プロの作家のショートショート小説でも、この段階ではこれくらい簡単に書けてしまうんだなぁ
ということは、超ショートショート小説の段階まではどんな素人でもプロでも同じ地点からスタートできるってことだよね
これを確認できたのは大きな収穫だったと思う
フェーズとシーンの仕分け
さっき紹介したあらすじには、フェーズとかシーンとかの見出しをつけている
フェーズというのは、ストーリー全体の中でこの部分はどういった”段階”なのかを示している
シーンはそのフェーズの中でさらに分割されている”話題”のまとまりだと考えてもらっていい
フェーズ1:占い師との出会い
フェーズ1はシーンが1つだけ
主人公の青年が行きつけのスナックで夕食をとった帰りに、駅のそばで占い師に出会い、能力について告げられるシーンだ
フェーズ1でストーリーの基盤となる設定が語られ、次のフェーズからはその設定のうえでさまざまなシーンが展開していくことになる
フェーズ2:能力の発現
フェーズ2は以下2つのシーンで構成されている
- シーン2−1:同僚の頭痛を取り除く
- シーン2−2:バーの女性のニコチン依存を取り除く
この2つのシーンを通して青年の能力が確かなものだと語られている
同僚の頭痛を取り除いたお礼にバーに行き、そこで出会った女性の悩みも取り除く流れ自体は自然だけど、こうしてまとめてみるとシーン2−2は別に存在しなくてもストーリーとしては成立するんじゃないかなと思った
同僚が青年に頭痛を取り除いてもらったことを社内であちこち吹聴してまわれば、いずれ次のフェーズで登場する専務の耳にうわさが届いていたんじゃないかと思うんだよな
オチまでにニコチン依存症がそこまで大きなキーになっていないし、なんで作者はこのシーンを入れたんだろうなぁ
フェーズ3:能力による社会的成功
フェーズ3は専務に能力を認められて一気に昇進する話で、以下3つのシーンで構成されている
- シーン3−1:専務の神経痛を取り除く
- シーン3−2:その功績により専務室長に昇進した直後、大きな取引先の婿養子の浮気性を取り除く
- シーン3−3:青年のそれまでとは一変した生活の様子を描く
噂を聞きつけた専務の神経痛を取り除いたことがきっかけで昇進し、さらに大きな取引先の婿養子の浮気性を取り除いた
それまでの単調な事務仕事をやらなくてよくなり、商売相手の機嫌をとることもなく、責任感の重圧に頭を使うこともない
専務の指示で能力を使うほかは雑誌でも読んでいればいいといった一変した生活までが描かれる
フェーズ4:いい気になって他人を治しまくる
フェーズ4ではガンガン能力を使いまくり会社に利益をもたらす青年の姿が描かれる
- シーン4−1:社長の親類のアル中を取り除き、その後もさまざまな症状の人たちを次々に治していく
- シーン4−2:いったん能力の仕組みを検討しようとするが断念、能力が消える様子はないので安心して使い続ける
ここで少し葛藤が入るが、一瞬で消え去ってしまう
このフェーズまでに深く仕組みを追求していれば後の悲劇は回避できた可能性があるんだけど……という伏線にもなっているみたいだ
フェーズ5:オチへの階段
フェーズ5はいよいよオチの1つ手前の段階になるので、ここから転換してオチへと向かっていく
- シーン5−1:給料もボーナスも格段に増え、青年は高級マンションに引っ越した
- シーン5−2:隣に住む神経科の医師がうわさを聞きつけて訪ねてきて、「手に負えない被害妄想の患者を治してほしい このままだと殺人狂になりかねない」と相談され、青年が手を貸して解決する
- シーン5−3:その後も順調な日々が続いていく
ここがオチの決定的な要因になるフェーズだ
ここで「自分が不運なのはだれそれのせいだ」と殺意をいだきはじめる患者の被害妄想を取り除いたことが最後のオチに繋がっている
シーン5−3で被害妄想を取り除いたあともしばらく順調な日々が続いたことの描写があるのは、自分に移った症状が現れるまでにしばらく期間があることを示すためなのか、オチ直前で入れた皮肉なのか
フェーズ6:バッドエンド
フェーズ6はシーンが1つだけで一気にオチまで畳み掛けている
ある日感じた頭痛をきっかけに、これまで取り除いてきた人々の症状が自分にあらわれはじめたのに気づく
そして最後にフェーズ5で取り除いたあの被害妄想にとりつかれ、能力を告げた占い師、頭痛を取り除いて能力を認識するきっかけになった同僚、次々に依頼人を連れてきた専務などに殺意を抱くようになったところで終わっている
星新一の『頭痛』を分解して気づいたこと
ショートショート小説においてアイデアを発想するところまではプロでもアマでも同じところからスタートしていることが分かった
プロだからアイデアの発想力がすごいとかじゃなく、面白そうな組み合わせをどうやって膨らませていくか、どうやってストーリーに仕上げていくかの腕の違いがプロとアマをわけているようだ
今回分解した『頭痛』を起承転結に置き換えて考えてみた
- 起:フェーズ1
- 物語を進めるために読者が知っておくべき前情報を提供する
- 承:フェーズ2〜4
- 前情報の具体的なエピソードを重ねてストーリーを進めていく
- 転:フェーズ5
- オチに向かって方向転換する(成功→挫折・挫折→成功など)
- 結:フェーズ6
- 話にオチをつけて終わらせる
なるほどこんな流れになっているんだなあ
あれ? もしかしてこの流れ、いくつかの作品で検証したらストーリーのフレームワークができるんじゃないか?
なんとなく昔読んだシナリオライティングの本でも似たようなことが書いてあった気が……
これはちょっと面白くなってきたぞ
次回予告
ふと思い立ってマンガの読書ノートを書いてみたら面白いことがわかった
そこで次回はマンガの読書ノートを書いて気づいたことを発表するよ
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