死ぬまで快感を追い求め続けますか?
良い習慣を継続して悪い習慣を捨てる、「自分を変える」本を実践しているよ
僕と一緒にこの本を実践して「自分を変える」方法を見つけよう
意志力を脅かす「脳の快感センター」
まず第5章全体を通じて、この実験について知っていることを前提に書かれているので紹介しておこう
1953年にモントリオールのマギル大学に、若き2人の科学者ジェームズ・オールズとピーター・ミルナーがいた
オールズとミルナーはラットの脳に電極を埋め込んで、電気ショックを送れるようにしたんだ
他の科学者が脳の中に恐怖反応を引き起こす場所があることを発見したので、そこを刺激して再現しようとしたんだそうだ
基になった実験の結果では、ラットは電気ショックを嫌がって逃げ回ると報告されていたんだけど、オールズとミルナーのラットはどうも様子が違っていた
予想ではケージの隅に行くたびに電気ショックを与えて、隅に行くと電気ショックで恐怖反応を引き起こされることを学習し、隅に近付かなくなるはずだった
ところがオールズとミルナーのラットは、まるで電気ショックを欲しがっているかのように自分から何度もそこへ戻っていったんだ
基の実験結果と違ってしまったのは、実験に不慣れで電極を埋め込む場所を間違えたせいなんだけど、このミスによって脳に強烈な快感が生まれる場所があるのではないかという仮説が生まれた
オールズとミルナーは、その部分を「脳の快感センター」と呼んだ
意志力どころか食欲の本能すら凌駕する快感センター
オールズとミルナーは、脳の快感センターをもっと詳しく調べようと、さらなる実験を開始した
次の実験では、脳の快感センターを刺激した場合に、どの程度の快感が得られるのか確かめることにしたんだ
24時間絶食させたラットをトンネルの真ん中に置いて、トンネルの両端にエサを置く
ラットは極限の空腹状態なんだから、普通は端っこへ飛んでいってエサにかじりつくよね
ところがラットがエサにたどり着く前に、脳に埋め込んだ電極から快感センターへ電気ショックを与えると、その場からピクリとも動かず離れようとしなかったんだ
すぐ目の前にエサがあるのに、それよりもまた電気ショックが欲しくて、じっと待っていたんだ
苦痛すらいとわない快感センター
今度はラットが自分で電気ショックを受けられるように、レバー式の仕掛けをつくるとどうなるか実験してみた
するとラットは5秒おきに自分自身に電気ショックを与え始め、他の数匹のラットでも実験したところ、みんなくたびれて動けなくなるまでレバーを押し続けた
さらに電流の通った網の両端にレバーを設置し、双方のレバーによって1回ずつ交互に電気ショックが受けられるようにしてみる
ラットたちはもちろん足が火傷で真っ黒になって動けなくなるまで、電流の流れる網の上を往復し続けたんだ
意志力に反して人が刺激を「やめられない」脳の部位
オールズとミルナーの実験結果を受けて、テュレーン大学の精神科医ロバート・ヒースが人体で実験することにした
この実験でも患者たちの脳に電極を埋め込んで、ラットと同じように脳の快感センターと呼ばれる部位を自分で刺激するためのコントロールボックスを与えた
もちろんオールズとミルナーのラットにそっくりな結果となり、患者は1分間に40回もコントロールボックスをポチポチやって脳を刺激するようになった
空腹で食事が目の前に置かれても、刺激を止めたくないばかりに食べようとしない──これもラットと同じ
そして実験を終了して電流を止めようとすると猛烈に抗議したらしい
ところでこの実験の対象になった患者たちは電気ショックについて「気持ちがいい」と言っていたので、快感を覚えているようには見える
でも電流を切っても貪欲に刺激を欲しがるのって、快感を得て満足している状態とは言えないんじゃないのでは?
この疑問は次の実験で解決の糸口が見つかることになる──そして「脳の快感センター」の真の姿もね……
「快感センター」なのに刺激は「腹立たしい」?
発作性睡眠障害(ナルコレプシー)という病気を知っているかな?
日中にとつぜん眠気が襲ってきて、どこでも眠り込んでしまう症状で有名だよね
この病気の患者が眠らないようにするために例の携帯用刺激装置を与えたところ、自分で脳の快感センターに刺激を与えたときの気持ちを「非常に腹立たしい」と述べている
この患者も多分に漏れず、頻繁に──ときには狂ったように──ボタンを押した
それなのに「もう少しで満足感が得られそう」な気がするだけで、とうとう最後まで満足を得ることはできなかったらしい
たしかに自己刺激を与えても焦るばかりで少しも楽しくない様子で、彼の行動は快感を覚えているというよりは何かに衝き動かされているカンジだったそうだ
「快感センター」の正体は「報酬システム」だった
後の研究によって、実はオールズとミルナーが発見したのは快感センターではなかったことがわかった
彼らが発見したのは現代の神経科学者たちが「報酬システム」(報酬系)と呼んでいる部位だったんだ
報酬システムは脳の中でも最も原始的なモチベーションのシステムで、人が行動と消費を促すために発達したといわれている
その部分が刺激されるたびに、脳が「もういちどやれ!気持ちよくなるぞ!」と叫ぶ
するとますます刺激が欲しくなるんだけど、刺激を受けること自体からは何の満足感も得ることはできないんだ
もちろん原始時代から発達してきた部分なので、脳に電極なんか埋め込まなくても、ここを刺激して反応を引き起こすものは身の周りに溢れている
- レストランのメニュー
- 商品カタログ
- 宝くじ
- TVCM
こういったごくごくありふれた刺激のせいで、人は「幸せの予感」を追い求めてしまう
そして脳は欲望でいっぱいになり、「やらない力」の意志力を発揮するのはきわめて難しくなるんだ
ドーパミンは「幸福感」をもたらさない
この報酬システムの仕組みをもう少し詳しく説明しよう
報酬が手に入りそうだと脳が認識すると、ドーパミンという神経伝達物質が放出される
ドーパミンは脳全体に指令を出し、注意力を集中してほしいものを手に入れようとする
ドーパミンが一気に放出されたときに感じるのは幸福感ではなくて、むしろ興奮に近いものなんだ
これによって神経が研ぎ澄まされ、敏感になり、欲望で頭がいっぱいになる
快感が得られそうな予感がして、そのためなら何でもしようという気になってしまうんだ
でも実際にはドーパミン放出効果によって満足感や喜びなどを感じることはできないことが、次に紹介する実験によりわかっている
ドーパミンが幸福をもたらさないことを証明した実験
俗に「パブロフの犬」と呼ばれている有名な実験があるんだけど、知っているかな?
1927年に心理学者イワン・パブロフが犬たちにエサをやる前にベルを鳴らすようにしたところ、犬たちは次第にエサが見当たらなくてもベルの音が聞こえた途端にヨダレを出すようになった──という内容の実験なんだ
この古典的条件づけを応用して、2001年にスタンフォード大学の神経科学者ブライアン・クヌットソンがドーパミンに関するある実験を行った
まず「スクリーンある記号が表れた場合にボタンを押すとお金がもらえます」と被験者たちに説明し、脳の様子を観察するために脳スキャナーを装着させた
実験が開始され、記号がスクリーンに表れるやいなや、ドーパミンを放出する脳の報酬センターが作動し、被験者は報酬を得ようとしてボタンを押した
でも被験者が実際にお金を受け取ったときには、脳のこの領域の活動は沈静化していて、実際に報酬を得た喜びを示す反応は脳の他の場所に表れたんだ
この実験によりドーパミンは幸福感ををもたらすものではないことが証明された
ドーパミンが大量に放出されると、欲しくなったものを何が何でも手に入れなければ気が済まなくなる
つまりドーパミンは幸福の「予感」によって行動を起こさせるためのサバイバル本能のひとつなんだ
このドーパミンの作用は、商品の宣伝にもうまく利用されている
脂肪分や糖分の高い食べ物、性的なイメージなどが氾濫した、ドーパミン効果を最大限に引き出すように仕組まれている環境で僕たちは暮らしているんだ
身の周りにあふれる携帯ドーパミン装置
人類はこれまでも様々な依存症を経験し、夢想したり吸引したり注射したりしてきたけれど、著者によるとテクノロジーほど脳に強烈な依存症の効果をもたらしたものはないと言っていいそうだ
- 留守番電話の録音があることの通知
- メールの着信通知
- FacebookやTwitterからの通知
- YouTubeの新着動画通知 など
新しいメッセージが届いているかも? 次の動画は笑えるかも?
こういった「予感」「期待」を刺激するテクノロジーは、まるで精神科医ロバート・ヒースが患者に与えた自己刺激装置の現代版のように思える
テレビゲームがドラッグと同じくらいドーパミンを出す
テレビゲームに関してアレコレ言うと反発を食らうこともあるんだけど、少なくともテレビゲームをやり続けるとアンフェタミンを服用した場合と同じくらいドーパミンが増加することはわかっているらしい
- 今度こそクリアできるかも
- すごいスコアを獲得できるかも
- レアアイテムが出るかも
こういった期待をしてしまうからこそ、ゲームにはたまらない魅力があるんだそうだ
これらの設計者たちは脳の報酬システムを意図的に利用してゲームプレイヤーたちを虜にしている
2005年に韓国の28歳男性がゲームを50時間連続プレイして、循環不全を起こして死亡したニュースを覚えている人は多いだろう
食事も睡眠もそっちのけでゲームに刺激を求め続けるなんて、まるで足が黒焦げになっても動けなくなるまでレバーを押し続けたオールズとミルナーの実験用ラットみたいだよね
マイクロスコープ:ドーパミンの引き金を探す
各章で説明するポイントが自分の生活にも当てはまることに気づくための課題、マイクロスコープ
今回のマイクロスコープは身の周りにある「ドーパミンの引き金」を探すこと
あなたの場合はどんな物がドーパミン放出を引き起こすか自覚していますか?
食べ物? お酒? ショッピング? フェイスブック? それとも何か他のものでしょうか?
今週は、思わずあなたが注意を引きつけられるものに注目してみましょう
あなたにとって、これさえ手に入ればいいのにとひたすら追い求めてしまうものは何でしょう?
パブロフの犬やオールズとミルナーのラットのように、よだれを垂らして夢中で欲しがってしまうものは何でしょうか?
僕にとっては「知識」と「情報」がドーパミンのトリガーになっていると思う
新しい知識や情報を得られる「予感」「期待」があるからTwitterを頻繁に開いてしまうわけだし、しょっちゅう本屋に行って本を買っているんだよね
これが人によっては「あと1回!あと1回だけガチャ回そう!」とか「もう1,000円だけパチンコ打とう!」になるんだろうね
まとめ: ドーパミンの引き起こす「予感」「期待」に気を付けよう
ドーパミンによって何かしら報酬(いいこと)の「予感」「期待」を引き起こされるのも、原始的な生存競争を生き抜くための本能だということがわかった
しかし現代においてはドーパミンの作用を利用した様々なテクノロジーが存在しているため、僕たちは非常に誘惑が多い環境で暮らしていることを意識しておかないといけない
ドーパミンの作用は場合によって安全すら脅かす可能性があることは忘れないでおこう
次回予告:意志力を殺し、本能を操作・誘導する人たち
次回はこのドーパミンによる「予感」「期待」を意図的に刺激しようとする人たちの話
ドーパミンの作用をビジネスに利用している人たちのエピソードを紹介していくよ
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