発見──意志力は人から人へ感染する
悪い習慣を捨てて良い習慣を継続する「自分を変える」本の実践記録を連載しているよ
お客様の中で既に意志力を高めることができている方はおられませんか!
肥満はこうして感染する
- 1990年──この頃のアメリカには肥満率(全州民に対する肥満の人の割合)が15%を超える州は1つもなかった
- 1999年──肥満率20~24%の州は18あったけど、25%を超える州はなかった
- 2009年──肥満率20%を下回るのがコロンビアとワシントンだけで、33の州が肥満率25%以上
これはアメリカ国民全体の健康状態の推移を長期間にわたって調査している機関『疾病対策予防センター』の記録だ
ハーバード大学医学部のニコラス・クリスタキスと、カリフォルニア大学サンディエゴ校のジェームズ・フォーラー──この2人の科学者は、こうした肥満の増加に着目して研究をはじめた
そのきっかけは公衆衛生当局の職員やメディアがこの肥満の拡大傾向に対して使い始めた、『肥満の感染』という表現に衝撃を受けたからなんだとか
人から人へ肥満が感染するなんてことがあるんだろうか?
それを確かめるために彼らは「フラミンガム心臓研究」のデータへのアクセス権を取得して、マサチューセッツ州フラミンガムの住民12,000人以上のデータ32年間分を調査した
その結果なんと肥満はたしかに家族や友人のあいだで感染していることがわかった
- ある人の友人が肥満になった場合、その人が将来肥満になる確率が171%増加した
- 姉妹が肥満になった女性の場合、本人が肥満になるリスクが67%増加
- 兄弟が肥満になった男性の場合、本人が肥満になるリスクは45%増加
そしてフラミンガムの地域で広まっていたのは肥満だけではなかったことも判明した
たとえば飲酒量が増えた人が1人でると、その地域では飲みに行く人や二日酔いになる人が激増したらしい
ところが悪い話ばかりだけじゃなく、どうやら逆に自己コントロールも感染するらしいという証拠も見つかったんだ
1人が禁煙すると、その人の友人や家族も禁煙する確率が高くなったそうだ
こうした感染パターンは他の地域でも確認され、薬物使用・睡眠不足・憂うつなどが同様のパターンで広まっていったことが観察されている
そしてその影響をまったく受けない人はいないということがこの実験から判明したんだ
マイクロスコープ:あなたの「感染源」を発見する
今回の課題はマイクロスコープが2つ、意志力の実験が1つある
まずは各章で説明するポイントが自分の生活にも当てはまることに気づくための課題、マイクロスコープ
最初の課題は「意志力の感染源を発見する」こと
意志力に関する問題はすべて周囲から”感染”するとは言えないにしても、多くの場合は社会的な影響を受けています
あなた自身の問題についてはどうでしょうか? 考えてみましょう
この課題では4つ質問されているので、それぞれについて自分の周囲を見渡して考えてみよう
・あなたの仲間うちの他の人たちも、あなたと同じ問題を抱えていますか?
特にブログ塾とかブロガーサロンとかに入っているわけじゃないんで「仲間」と言ってしまっていいか分からないけど、「ブログを毎日更新できない」というのはTwitterでフォローしている人たちにはチラホラ見かける
「ブログを毎日更新する必要なんかない」という人もいて、その正否はさておき毎日欠かさず記事を書くというのはみんな相当に難しい意志力の問題だと感じているみたいだね
・あなたの習慣は、友人や家族の習慣がうつったものだと思いますか?
ブロガーと呼べる友達は何人かいるけれど、身近で毎日ブログを更新しているという人はいない
Twitterでフォローしている人たちでは何人か毎日(週末まで含めて毎日)更新している人たちもいるけど、その人たちとは毎日ブログを書けるようになってからのお付き合いだ
だから誰かからうつったものじゃないと思う
でも実は14歳くらいから25歳頃までタバコを吸っていて、それは親父が喫煙者だったことと、中学の頃の友人たちが誰からともなく吸い始めたのが確実に影響していると思う
さらに高校では逆に僕が感染源になって、女子1人を除いてつるんでる連中全員が喫煙するようになってしまった
そして禁煙したのも親父が意外にアッサリ禁煙してしまったからというのは影響されてると思うし、その頃の友人たちで禁煙した人が増えてきたのも大きな影響だろうね
・一緒に楽しみにふける仲間がいますか?
これは誘惑に負けるときの質問のことかな?
うちの家族は割とみんな映画・ドラマ・マンガが大好きなので、誰かが何か見てると「おっ」と思って一緒に見てしまうことはよくある
・仲間うちで、あなたと同じ問題の改善に取り組み始めた人はいますか?
さっきも言ったけど「ブログを毎日更新する仲間」というのはいないんだよね
高校の頃にパンデミックさせたのは悪い習慣だったけど、今は良い感染を起こして影響を与えることができているらしい
嬉しいことだけど、その人たちが『意志力を高めるなら偽りの希望に満足するな』で紹介した「偽りの希望シンドローム」で終わっていないことを切に願う
「他人の欲求」を自分の欲求のように感じる
ここまでの連載で見てきたとおり、心の中には「いくつもの自己」がいて、それぞれ意志力をめぐってせめぎ合っている
わかってると思うけど、『24人のビリー・ミリガン』や『幽遊白書の仙水』みたいな多重人格ってことじゃないよ
- 目先の欲求に従おうとする本能的な自己 vs もっと大事な目標を忘れない理性的な自己
- 現在の自分と将来の自分のつながりの深さ
そして脳の中に存在するのは「自己」だけじゃない
両親・配偶者・子供・友人・上司など、日常生活で深くかかわっている人たちの存在も脳の中にあるらしい
ミラーニューロンが他人と共感する
脳の中には『ミラーニューロン』という、他人が考えていることや感じていること、行っていることを把握するためにのみ存在する細胞がある
たとえば誰かと一緒に台所に立っているところを想像してみて
そしてこのとき相手が右手を包丁のほうへ伸ばすのを見たとしよう
このとき自分の右手の動きや感覚と繋がっているミラーニューロンが活性化して、脳は相手の動作を自分の体の中で再現しようとする
自分の体の中で再現することで、「相手がなぜ包丁を取ろうとしているのか」「次に何が起ころうとしているのか」を予測しようとする
- 自分を襲おうとしているのか?
- それとも相手がスパッといこうとしているのは、カウンターの上のケーキなのか?
そしてもしも包丁を持ったときに相手がうっかり親指を切ってしまったのを見たとしたら!
「あっ、痛っ!」という声が頭の中で響く人もいるだろう──もちろん指を切ったのは自分じゃなくて相手のほうなんだけど
このときは脳内の痛みを司る領域に存在するミラーニューロンが反応して、すぐさま相手の感情を察知する
相手の痛みをあまりにもリアルに認識するため、自分の脊髄の神経が右手から送られてくるはずの痛みの信号を抑えようと反応してしまいさえする
さて応急処置をして落ち着いたところで相手はケーキをひと切れ皿に載せた
それと同時に自分の脳の報酬システムに存在するミラーニューロンが活性化する
もし自分がケーキを好きでなくても、相手の好物──つまり相手にとって報酬となる誘惑──だと知っていれば、自分の脳も報酬を期待し始めてしまう
ミラーニューロンは「目にした失敗」をマネしたがる
脳が意志力の問題における失敗を招く3つのパターンがある
- 無意識にマネをすること
- 感情に感染すること
- 誰かが誘惑に負けるのを見ると、自分の脳が誘惑に反応してしまう
1. 無意識にマネすること
様々な状況において、他の人の仕草や行動をいつの間にかマネしていることに気づくことがあると思う
会話をしている人たちのボディランゲージを見ていれば、そのうちお互いの仕草をマネしはじめるのが分かる
- 片方が腕を組めば、その話し相手も腕を組む
- 背もたれによりかかれば、まもなく相手も寄りかかる
こうやって無意識にお互いの仕草をマネすることによって、相手のことが理解しやすくなって、相手と繋がっている感じや親近感が湧くらしい
心理学では『ミラー効果』や『同調効果』と言われる現象で、それを逆手にとって意図的に相手と同じ仕草をすることで好意をもってもらいやすくする『ミラーリング』という心理学テクニックも存在するんだよ
そして一緒にいる誰かがスナック菓子に手を伸ばすのを見たら──お酒やクレジットカードでも──いつの間にか自分もマネしてしまって意志力を失ってしまうかもしれない
映画の登場人物がタバコを吸うのを見たときに、喫煙者の脳でどんな反応が起きるかを調査した研究があるんだけど、被験者の脳の中では自分もタバコを1本取り出して火をつけようとしているかのように、手の動きを司る領域が活発になったそうだ
スクリーンの中で誰かがタバコを吸うのを見ただけで「タバコを吸いたい」という無意識の衝動が生まれ、さらに脳にはその衝動を抑えるという負担が加わったんだ(だって映画館では禁煙だからね)
2. 感情に感染すること
さっきの台所の例え話では相手が包丁で手を切った痛みに反応していたけれど、ミラーニューロンは感情にも反応する
たとえばすぐ近くに機嫌の悪い人がいると周りまで不機嫌になってしまうことってない?
なんかイライラが感染して「あーあ、飲みにでも行くか!」「なんか新しいバッグでも買いたい気分!」となったりするのはミラーニューロンが他人の感情に反応しているせいだ
海外のホームコメディドラマを観たことがある人なら分かると思うけど、あの手のテレビ番組でちょくちょく観客が笑っているような効果音を入れてくるのもこれを利用している
日本のバラエティ番組ではもうちょっと手の込んだことをやっていて、収録スタジオに実際に観客を入れて笑い声を収録することでよりリアルな「効果音」を使っているんだ
笑いならいいんだけど、イヤな気分の感情に感染してしまうと、人は気晴らしのためにいつものアレをやってしまおうとするかもしれない
3. 誰かが誘惑に負けるのを見ると、自分の脳が誘惑に反応してしまう
台所の例え話で言うと最後のケーキを皿に載せたあたりからのくだりだね
自分と同じ意志力のチャレンジに取り組んでいる人が誘惑に負けた姿を見ると、自分もつられて負けたくなってしまうそうだ
他にも他人が欲しがっているものを頭に思い描くと自分も同じものが欲しくなったり、他人がモリモリ食べているところを見ると自分も食べたくなったりする
友達が「あー今日はラーメン食べたい気分だ!」と言ったら、さっきまでサラダ買って食べようと思ってたのに「いいねぇ! ようし一緒に行くか!」となってしまうことってあるよね
この反応を知っていると、誰かと一緒に行動することで以下のリスクがあることが分かる
- みんなと食事をすると1人で食べるときより食べ過ぎてしまう
- 友達とショッピングに出かけると普段よりも買いすぎる
- ギャンブルで他人の大勝ちを見て、”投資”しすぎたりする
もしかすると「ぼっち最強」ってことなのか!?
『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』って本をこないだ見かけて「ハハッ、ワロス」くらいにしか思ってなかったんだけど、アレもしかすると結構ちゃんとした根拠があるのかもしれないな
マイクロスコープ:誰の「まね」をしていますか?
各章で説明するポイントが自分の生活にも当てはまることに気づくための課題、マイクロスコープ
今回2つ目の課題は「自分が誰のマネをしているか考えてみる」こと
今週は、自分が誰かの行動をマネしているかどうか注意してみましょう
とくに、あなたの意志力の問題にかかわることに注目します
仲間とつるんで楽しみにふけることがお互いを結びつけ、仲間関係を持続させる理由になっていませんか?
同じことをするにしても、他の人たちと一緒だとついやりすぎてしまったりしませんか?
飲みに出ると、大体その日いちばん調子がいい人に合わせて飲み過ぎてしまうことはよくあるかなぁ
そして朝まで酒飲んでバカ騒ぎするのも「仲間とつるんで楽しみにふけることがお互いを結び付け」ていると思う
目標感染
日常生活で思い当たることが多々あると思うけれど、人は自然と相手の心を読んでいる
他の人たちが何かしているのを見ると「何をしてるんだろう」と脳が推測するんだ
これはアレコレ想像を巡らせることで、他人の行動を推測して人付き合いでの失敗を避けようとしているそうだ
「あの女の人は何で相手の男の人に怒鳴ってるんだろう?」と気になっているときは、自分自身や周りの人を社会的な脅威から守ることを考えている
「怒鳴っている女性と怒鳴られている男性と、どっちが危ないんだろう? 困っているのはどっちだ?」というような具合に
「あの店員さんやたらと愛想がいいけど私に気があるのかしら?」と考えてしまうときでも、その場に最もふさわしい態度をとらなければ大失敗してしまう
思わせぶりなキャストはどこかであなたと2人きりになりたいんじゃなくて、ただノルマを達成するために売上を少しでも多くしようとしているだけなのかもしれないからね
こんな風に無意識に相手の心を読むことによって、自己コントロールに副作用が生じることがある
「目標感染」と呼ばれていて、いつの間にか自分も相手と同じ目標を抱いてしまう現象なんだ
ある実験では、春休みの間ずっとアルバイトに励んだある学生に関する記事を読ませただけで、学生たちみんなお金を稼ぎたくなった
彼らは少しでもお金を稼ごうとして、以前よりも熱心かつスピーディーに実験の手伝いをするようになったそうだよ
他にもバーで女の子を引っ掛けた男の話を読んだ男子学生たちは、自分たちも同じように行きずりのセックスがしたくなって、実験室に顔を出したカワイイ女の子にはやけに親切に対応するようになったらしい
別の実験では、マリファナをやる友人のことを考えた大学生が自分もハイになりたくなったり、あるいは逆にタバコを吸わない友人のことを考えた学生はタバコへの興味が減ったという結果も出ているんだ
目標感染が起こる条件
なんだかさっきの実験エピソードではぶっ飛んだ話が出てきたけど、実は目標が感染するのは自分もある程度は経験のあることだけなんだ
タバコを吸わない人は友だちがタバコに火をつけるところを見てもニコチンが欲しくなったりはしない
自分のやりたいと思っていることを、誰かが目の前で実際にやっているのを見てしまうと、欲求のせめぎ合いにおけるバランスが崩れてしまうことがある
- 将来の健康も大事──だけど今楽しみたい!
- クビになるのは困る──けどいい加減にこの腹立たしい客を一発ぶん殴りたい!
- 借金を早く減らしたい──けど頑張って稼いだんだから久しぶりに1回くらいパーッと金を使いたい!
とまあこんな具合にね
目標感染するのは自己コントロールと誘惑
目標感染には2つのパターンがある
- 自己コントロールが感染する
- 自分を甘やかそうとする誘惑が感染する
特に人は誘惑の感染に対してはとりわけ弱いらしい
たとえば一緒にランチを食べている友人がデザートを注文したと想像してみて
目先に楽しみに飛びつこうとしている友人の欲求が、自分にも感染してくると──体重を減らすという目標をくつがえしてしまうかもしれない
他にもクリスマスプレゼントをどっさり買い込んでいる人を見かけたとしよう
自分の胸にも「クリスマスの朝に子どもたちを大喜びさせてやりたい!」という熱い思いがこみ上げてくる──そしたら節約の目標なんて頭から吹っ飛んでしまうかもしれないよ
意志力の実験:意志力の「免疫システム」を強化する
最後の課題は科学的な研究や理論にもとづいて自己コントロールを強化するための実践的な戦略、意志力の実験
「意志力の感染を防ぐ免疫システム」について考えてみよう
他人の欲求が必ずしも自分に感染するわけではありません
ときには誰かが誘惑に負けるのを見ることで、逆に自己コントロールが強くなることもあります
あなたが目標(例:体重を減らす)に向かって必死に努力しながらも、相反するような欲求(例:こってりしたシカゴ風ピザを食べたい)を感じている場合、大事な目標を脅かすような行為をしている人を見かけたとたん、あなたの脳は厳戒態勢に入ります
すなわち、脳は最も重要な目標をあなたに強烈に意識させ、目標を投げ出さないようにするための戦略を編み出します
心理学者が「反作用的コントロール」と呼んでいるもので、あなたの自己コントロールを脅かすものに対する免疫反応だと思えばよいでしょう
他の人たちの欲求に対する免疫機能を強化するには、一日の始めに数分間、自分自身の目標についてあらためて考えるとともに、どんな誘惑にかられたら目標をおろそかにしてしまいそうかも念のため考えておきましょう
自分の目標をあらためて思い起こすことは他人のもっている菌からあなたの身を守ってくれるワクチンのように、あなたの心構えをいっそう強化し、望ましくない欲求が感染するのを防ぐ助けになります
まず安心したのは意志力のために交友関係を犠牲にしなくてもいいらしいってことだ
いや割とさっきの「ぼっち最強説」は悩んだよマジで
さてじゃあ安心したところで僕がこの連載を通して意志力を高めるチャレンジ課題としている「月~金は毎日ブログを更新する」だけど、「何か別のことをやりたくなったら」目標をおろそかにしてしまいそうになる
僕ってものすごーく飽きやすくて、女性関係でも1年以上付き合ったことのある相手は1人だけというくらい飽きやすい
今のこの状況が果たしてベストなのか? 捨てて進むことでより良くなるんじゃないか? と考えてしまって、18~22歳くらいまで将来の方向性が決められなくて「1年働いたら転職して色んな職業を体験する」ってこともやってた
だから今でも誰かが面白いことをやってるのを見てそこから閃いたら「アレもやりたい」「コレもやりたい」って思っちゃうんだけど、「この連載が終わったらな」というポモドーロ・テクニックの応用でなんとか抑え込むことができてるんだ
せめてアイデアはメモしておこうと思って、クラウド上にどんどんアイデアメモが溜まっていってるんだけど、「これ全部やるのは大変だなぁ」と思っててどれから手を付けようか悩むくらいなんだよね
というわけで「わき見しそうになったら」目標をおろそかにしそうになるので、「いいよ ただし今やってるコレが終わったらな」ということにしてるのが望ましくない欲求が感染するのを防ぐ方法かな
まとめ:良くも悪くも意志力は感染する
意志力は人から人へ感染していき、その仕組みの中心がミラーニューロンだということを知った
感染すると誘惑に負けてしまいそうになる場合もあるけれど、逆に良い習慣も感染することが分かった
次回予告:ルール違反の「形跡」が意志力を弱くする
今回は「目にした失敗をマネしたがる」という脳の動きを勉強したけど、「目撃しなくても感染する」場合があるらしい
何かしら悪いことをした「形跡」を見ただけでそれをマネしたくなるどころか、そもそもの意志力が低下してしまうそうだよ
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