あなたが今にも誘惑に負けそうになっているのは分かっていますが、10分だけ辛抱してみてください…けっして後悔しないはずです
「自分を変える」連載として悪い習慣を捨てて良い習慣を継続する本を実践しているよ
今回も一緒に意志力を高めるトレーニングをしていこう!
チンパンジーに人間が負けました
今日はチンパンジーと人間の自制心を比較した最初の実験に関するエピソードから
時は2007年── チンパンジー19頭 vs 人間40名 天下分け目の合戦が幕を開けた!
彼らには「目の前のおやつを我慢して、あとでもっと沢山のおやつを貰うことができるか」という意志力の実験に参加してもらった
実験1
これには人間もチンパンジーも「6個」のほうを選んだ
実験2
72%のチンパンジーが2分待ったが、人間で待つことができたのは19%しかいなかった
衝撃の展開!まさかの人類敗退!
さてこれは一体どうしたことだろう
人間もチンパンジーも実験の始めには「6個のほうがいい」と意志表示していた
でも多くの人間が実際に選んだのは、2個のほうになってしまったわけだ
「すぐに」手に入れないと気が済まない
チンパンジーの脳の大きさは人間の脳の1/3しかない
「2個より6個のほうがいい」という希望に従って、「2分待つ」という最小の犠牲を払うだけで「6個のおやつ」という最大の利益を手に入れたわけだ
一方で人間のほうはというと、まったくもって理性に反した行動をとっていたよね
「2個より6個のほうがいい」という希望はチンパンジーと同じなのに、「おやつを3倍もらうためには2分待たなければならない」と聞いたとたん、8割以上もの人が直前に言ったことと正反対の選択をしたんだ
遅延による価値割引
この実験で設定された状況のような「報酬を得るために長く待たなければならない」ほど、「その報酬の価値は下がる」という考えを、経済学者たちは「遅延による価値割引」と呼んでいるそうだ
ネガティブなことを先延ばしにしてしまうことにも関係しているらしく、将来の幸福を犠牲にしてまで目先の満足を手に入れようとする心理だそうだ
たとえば税金のための確定申告が遅れると追徴課税が課されるよね
もし遅れたら大変だから早め早めに片付けておくのが一番いい
でも期限はまだまだ先なんだし、今は楽しいことを優先してやってしまおう──とか(やっておけば「後がラク」、去年も「ギリギリになって大変だった」と分かっていても)
他にも2~3カ月お金を貯めてから買えばいいものを、すぐ手に入れたいから高い利率でクレジットカードの分割払いしちゃうとか
もっと大きい話で言えば将来的に化石燃料の枯渇が心配されているけれど、まだまだ先の話だから特に対策をしなかったり
遅延による価値割引の考え方になると、こんなふうに欲しいものは「今すぐに」手に入れなければ気がすまず、やりたくないことは全て明日に延ばしてしまうんだ
マイクロスコープ:将来の報酬の価値を低く見ていませんか?
今回の課題はマイクロスコープが1つ、そして意志力の実験が1つある
まず最初は、各章で説明するポイントが自分の生活にも当てはまることに気づくための課題、マイクロスコープ
今回のマイクロスコープは「将来の報酬に対して自分がどう考えているか」を観察すること
意志力のチャレンジにおいて誘惑に負けたり先延ばしにするたびに、あなたは将来のどんな報酬を棒にふっているのでしょうか?
そんなにまでして手に入れようとする目先の報酬とは何でしょうか?
長期的にはどんな犠牲が生じるでしょうか?
将来のことを考えた場合、割に合うといえるでしょうか?
もし、理性的な自分が「いや、こんなのは割に合わない!」と思うのであれば、自分がそのような思いに反した行動を取りそうなときには注意しましょう
将来を犠牲にしようとするとき、あなたは何を考え、どんなふうに感じているでしょうか?
僕が意志力のチャレンジで誘惑に負けたり先延ばしにするとき、「時間的な余裕」を犠牲にしていることが多い
毎年3月になると「今期こそはちゃんと早めに片付けよう」と決心するんだけど、もうすでにその時点で3カ月分の会計入力が溜まってるという……
『意志力を高めるなら偽りの希望に満足するな』で紹介した「いつわりの希望シンドローム」そのものだよね
考えてみれば大小問わず「まだ期限まで余裕がある」「まだ大丈夫」のチキンレースはよくやってしまう
『ToDoリストは今すぐ捨てろ! 『「時間」はどこへ消えたのか?―――「期限」が仕事を遅くする』』で学んだので放置しなくはなったけど、着手までに腰が重いのは相変わらずだ
「5年後の成果」など脳は望んでいない
頭の中で考えているときは合理的でいられても、いざ目の前に誘惑が表れると脳が報酬を求めるモードに切り替わってしまって、報酬を逃すまいとする
これを行動経済学では「限定合理性」と呼ぶそうだ
有名な行動学者ジョージ・エインズリー(日本でも「誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか」の訳本が出ている)の主張によると、酒・依存症・体重の増加・借金などの問題において、自己コントロールが失敗する原因の大半は、このような意志の逆転現象が起きるせいだという
人間がこれほど目先の快楽に弱い理由のひとつには、脳の報酬システムが「将来の報酬」に反応するよう進化しなかったせいでもある
そもそも原始時代に報酬システムがターゲットとしているのは食料だった
大昔の人間に必要だったのは、報酬が手に入りそうなチャンスを逃さず、サッと飛びつくことだった
腹が減ったら木に登ったり川を渡ったりして木の実を手に入れるとか、その程度に近くの報酬を求めるためのモチベーションさえあれば充分だったわけだ
備蓄するとしてせいぜい明日のために蓄える程度だっただろう
人間が生物学上で現在と同じホモ・サピエンスに進化したのが20万年くらい前だとして、農耕が始まったのが2万3千年前だと言われている
つまりホモ・サピエンスになってからも「遠い報酬」を選択できるようになるほどの意志力を得るためには17万年以上もかかっているってわけだ
目に入るから「報酬システム」が作動する
目先の報酬と将来の報酬を天秤にかけるとき、この2つの選択肢に対する脳の反応はまったく異なる
目先の報酬への反応
もちろん報酬システムは将来の報酬にはほとんど反応を示さない
将来の報酬への反応
これは不可能ではないし、前頭前皮質それ自体そのために存在しているようなものだ
でも実験用ラットが電流の通った網の上を足が黒焦げになるまで駆けずり回ったり、スロットマシンで全財産をすってしまうほどの激しい欲求と戦わなければならない
それはそれはカンタンなことではないことは、あなたもよく分かっているはずだ
ということは意志力を高めることができずに、報酬システムが前頭前皮質の働きかけを完全に抑え込んでしまうことだって、もちろんある
でもそのためにはいくつか条件がある
- 報酬がすぐ手に入る状況でなければならない
- 最大の効果を発揮するには、目の前で実際に報酬を見る必要がある
つまり報酬から距離をおいて、見ないようにすればOKだ
チンパンジーとの実験に参加した人間たちも、実際に報酬を見せなければ「少し待つ」と答えた人たちのほうが多くなったそうだよ
そう考えると『意志が弱い人を狙う ドーパミンを搾り取るマーケッター』に出てきた、「通販カタログの購読をやめた人」は理にかなっていたわけだね
引き出しにしまうだけでおやつが1/3に減る
ある実験ではキャンディの入ったビンをデスクの上に置くのをやめて、引き出しにしまっただけでキャンディの消費量が1/3に減ることがわかった
デスクの上のビンに手を伸ばすのも引き出しを開けるのも、そう労力は変わらないはずなのに、キャンディを目の前から隠すことで欲望が常に刺激されることがなくなったせいだそうだ
ここに僕はオフィスグリコのマーケティングポイントを見た
オフィスグリコというのは貯金箱つきのお菓子箱を置いてくれるサービスで、食べたいお菓子を取ったらその分の代金を貯金箱に入れるというシステムになっている
あれは「オフィス内で手軽にお菓子を買えること」がサービスのキモなんだと思っていたけれど、「お菓子を常に目に見える場所に置いておくことで売れやすくする」という、ドーパミンを利用するマーケティングの一種だったわけだ
意志力の実験:「10分待つ」と何が起こるのか?
今回2つ目の課題は、科学的な研究や理論にもとづいて自己コントロールを強化するための実践的な戦略、意志力の実験
今回は「欲しいと思ったら10分待ってみる」という実践
欲しい物のために10分待つなんて、たいしたことじゃないと思うかもしれませんが、神経科学者らの発見によれば、たったそれだけのことで、報酬に対する脳の受け止め方は大きく変わることがわかりました
目先の満足を味わうために10分待たなければならない場合、脳はそれを先の報酬として解釈します
すると報酬への期待がそれほど起こらないため、目先の快楽に飛びつくのに必要な、強烈な生物学的反応も起きません
たとえば、10分待たなければ食べられないクッキーと、減量という長期的な報酬を比較しても、脳は「すぐに手に入る報酬」と比較したときのようなバランスを欠いた判断はしません
目先の快楽といっても、ほんとうに「すぐに」味わえるものでなければ、脳を乗っ取ってあなたの優先順位を覆すようなことはできないのです
脳を落ち着かせて賢明な判断をさせるためには、どんな誘惑に対しても必ず10分間は辛抱して待つようにします
もし10分経ってもまだ欲しければ、手に入れてもいい
ポイントは10分が経つのをただ待っているだけじゃなく、10分の間に誘惑に打ち勝ったあとで待っている長期的な報酬を思い描くのがポイントなんだそうだ
そしてできれば、誘惑になるものとは物理的に距離を置くか、視界に入らないようにすること
もしあなたの意志力のチャレンジが「やる力」を必要とするものだとしても、この10分ルールを利用して先延ばしにしたい誘惑に打ち勝つことができます
つまり、逆さまにして「10分経ったらやめてもよい」というルールにするのです
がんばって10分続けたら、やめてもよいことにしましょう
けれども、いったんやり始めると、たいていは続けたくなるものです
「やる力」の意志力を高めるほうで言うと、スティーヴン・ガイズの『小さな習慣』では、もっと小さく1分とかにするんだろうし、『創作や作業に没頭したいのに邪魔する人がいる? これ1つだけやってください お金は使いません』で紹介したポモドーロ・テクニックだと25分間だ
実際のところ僕はポモドーロ・テクニックで25分間を縛るタイマーが回っていないと、よく脱線する
作業中にふと気になったことを延々と調べ続けてしまったり、「いま25分のタイマーが回っているぞ」と意識していないと、本当にカンタンに思考が脱線してしまうんだ
10分ルールでタバコを減らす
今回の意志力の実験に出てきた10分ルールで、タバコを吸う本数が減った男性のエピソードを紹介しよう
この男性は「健康面も気になるし禁煙したい」と思いながら20年近く経っていて、もう今さら……と思っていたそうだ
ところが「絶対に10分は待つ」というルールのおかげで、タバコを吸いたいという衝動をどうにかやり過ごし、「心臓疾患やガンのリスクを減らしたい」という望みを思い出すことができた
もちろん10分待ったあと結局吸ってしまったり、10分が待てずに吸ってしまうこともあったそうだ
でも「待つ」というトレーニングを繰り返すことによって、「タバコをやめたい」という意志が次第に強くなっていった
どうしても吸いたくなったときにも「いいよ、でも10分後だ」と自分に言い聞かせると、頭ごなしに「ダメだ!ガマンガマン!」と考えたときに比べて、パニックやストレスがいくらか和らぐような気がしたそうだよ
意志力を高めることができてきて次第に待つのがラクになってくると、10分間で他のことを考えているうちにタバコを吸いたいと思っていたのを忘れてしまったことさえあったらしい
この練習を何週間か続けたあと、男性はトレーニングをさらに1段階レベルアップさせることにした
10分待っている間に同僚のオフィスや禁煙のお店など、タバコを吸えない場所へ移動してしまうことにしたんだ
こうすれば喫煙の衝動を抑えないといけない時間がさらに伸び、吸いたくなってしまってもすぐには吸えない状況になってしまっている
やがてさらにレベルを上げ、最初の10分を我慢できたら、あともう10分我慢して、それでもまだ吸いたいと思ったら吸うことにした
まもなくタバコの量は1日1箱から2日で1箱──半分に減らすことができたそうだ
ちなみにこのエピソードで最も重要なのはタバコの本数をどれだけ減らせたかというところじゃない
男性が「禁煙しようと思えばいつでもできそうだ」という自信をもち始め、そのために必要な自制心も強くなっていったというところがポイントだ
つまり『意志が弱い悪循環「どうにでもなれ効果」』で出てきた「失敗した自分を許す」ということが効果的にできるのが、この10分間ルールってことなんだ
まとめ:誘惑は目に入らないようにして、10分間ルールをうまく使おう
なぜ人間が目先の快楽に対してこれほど弱いのか、脳の仕組みから知ることができた
意志力を高める邪魔をする誘惑になるようなものは目に触れないところへ置いておくほうがよさそうだ
次回予告:将来の報酬を自分に意識させて意志力を高める
次回は「遅延による価値割引」について少し深く掘り下げて勉強するよ
意志力を高めるために「もうひとりの自分」と戦うための戦術も併せて学んでいこう
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