警告! これを読みながらシロクマについて考えてはいけません
良い習慣を継続するために悪い習慣を捨てて「自分を変える」本の実践記録
「シロクマのことを考えるな!」というのは無理なんです!
ダニエル・ウェグナーのシロクマ実験
社会心理学者ダニエル・ウェグナーは、ロシアの小説家レフ・トルストイのこんなエピソードを読んで「我々はなぜ思考をコントロールできないのか?」と考えた
しばらくして兄が戻ってみると、トルストイはまだ部屋に隅にいて、シロクマのことがどうしても頭から離れなくて呆然としていた
そして1985年、それはトリニティ大学の心理学実験室で行われた
ウェグナーは実験の参加者たちに「何を考えてもいいけれど、シロクマのことだけは考えないように」と指示をした
すると参加者たちは幼いトルストイのように、考えないようにすればするほどかえってそのことばかり考えてしまうようになってしまった
皮肉なリバウンド効果
こうした実験から、ある考えを頭から追い払おうとするとブーメランのように戻ってくることが確認された
これをウェグナーは「皮肉なリバウンド効果」(Ironic process theory)と呼んでいる
ストレスで参っていたり、疲れていたり、気が散っていたりする場合は、なおさらその傾向が強くなることも以後の実験で確認されている
たとえばこんなカンジ
- 不眠症の人が眠らなければと焦るほど、ますます目が冴えてしまう
- 炭水化物抜きのダイエットをしている人が、ふわふわの白いパンや、あったかい白ご飯のことで頭がいっぱいになってしまう
- 心配性の人が悩みごとを考えないようにしようとすればするほど、最悪のシナリオが浮かんでくる
- 起きているときに憧れの人のことを考えないようにしていると、あえてその人のことを考えて夢想にふけった場合よりも、その人の夢を見る確率が高くなる
さらにウェグナーはその後、思いつくかぎりのあらゆる本能について、それを抑制しようとした場合には皮肉な結果となる証拠を見つけた
- 就職活動中の学生が面接官に良い印象を与えようと力みすぎて、嫌みでうっとうしい発言をしてしまう
- 演説している人が政治的に正しい表現を使おうと意識するあまり、かえって思いきり差別的な表現が浮かんでくる
- 秘密を漏らすまいと思っている人が、なぜか思わず口をすべらせてしまう
- ウェイターがトレイをひっくり返さないようにしようと必死になるほど、シャツを汚す確率が高まる
- 同性愛嫌悪の男性ほどゲイ・ポルノを観て勃起する確率が最も高い
思考の「モニター機能」が破滅を導く
考えや感情を頭から消し去ろうとするとリバウンドが起きるのは、「何かを考えてはいけない」という指令を脳が処理するプロセスに関係があるのでは?
こう考えたウェグナーは、ある2つの脳内システムにそれぞれ名前をつけることにした
それが「オペレーター」と「モニター」だ
オペレーター
脳の自己コントロールのシステムに依存し、多大な心的資源とエネルギーを必要とする
モニター
脳が自動的に脅威を探知するシステムに深く関係している
オペレーターが意識を集中させて予定どおりの行動を取らせようとする一方、モニターは頭の中や環境をスキャンして警報を発令する
気力がみなぎっている状態なら、オペレーターはモニターの警報を役立てることができる
モニターが誘惑の源や厄介な考えを探知すると、オペレーターが前面に出てきて目標へと導いて軌道修正してくれるんだ
ところが何らかの理由でオペレーターが作動しなくなると、モニターは意志力にとんでもない障害をもたらすようになる
たとえばこんな理由で気力が衰えている場合には、オペレーターはまともに作動しない
- 気が散っている
- 疲れている
- ストレス
- 酒で酔っている
- 病気
- その他精神的な疲労
オペレーターは多大な心的資源とエネルギーを必要とする一方、モニターは精神的な努力をそれほど必要とせず自動的に作動しているシステムだ
ということはオペレーターがまともに動かなくなっていても、モニターのほうは止まることなくガンガン動き続けている状態になってしまう
オペレーターが疲弊しているのにモニターが活発になると、頭の中のバランスが崩れ始める
モニターが禁止事項を探知するたび、頭の中には禁止事項が入ってきて、脳はそうした情報を無意識に処理している
その結果まさに自分が避けようとしていることを考えたり、感じたり、やってしまったりするようになるんだ
ところでモニターのほうは闘争・逃走本能のトリガーになっている扁桃体に関係あるんだろうか? あれも目からの状態を監視して危険を察知していたよね
ダイエット中の思考をオペレーターとモニターで見てみる
オペレーターとモニターの動きを、「クッキー大好きだけどダイエット中で辛抱している」という人の脳内を例に考えてみよう
この人が「スナック菓子売り場には近寄るまい」と決心してスーパーへ買い物に行ったときの状況だ
スナック菓子売り場の近くを通りかかると、モニターはクッキーを買ってはいけないことを思い出し警報を頭の中に響き渡らせる
クッキー! クッキー! クッキー! スナック売り場が近づいているぞ
通常であればその警報をオペレーターが役立てて「おっとスナック菓子売り場だ、いかんいかん」と考えることができる
ところがモニターとバランスをとるだけの十分な力がオペレーターにないと、身の破滅を防ぐはずのモニターによって一気に破滅へと導かれてしまう
クッキー、クッキー、クッキー
「あ、スナック菓子売り場だ……ここまでダイエット頑張ってきたんだし今日くらいいいかな……」
こうして見事にモラル・ライセンシングとのコンボが決まったのだった──
頭に浮かぶことは真実だと思い込む
ある考えを頭から追い払おうとして、かえってそれが頭から離れなくなると、こんなふうに思い込む可能性が高くなる
- きっと本当のことだからに違いない
- 真実でなかったら、こんなに何度も意識にのぼってくるはずがない
人は「考えることには重要な意味がある」と信じているため、ある考えがしょっちゅう浮かんで頭から離れなくなると、それは「注意を払うべき緊急のメッセージに違いない」と思うようになる
たとえば飛行機事故のニュースは一度聞いたらインパクトが大きく記憶に残りやすいので、飛行機事故にあう確率は高いように感じるよね
実際は飛行機事故の確率は1/14,000,000(0.000007%)なんだそうだけど、ほとんどの人はアメリカの死亡原因トップ10に入るような「腎炎」や「敗血症」で死ぬ確率よりも高いように感じているらしい
(ちなみに調べてみるとアメリカ人が腎炎で死ぬ確率は19/1,000(1.9%)、敗血症は15/1,000(1.5%)だった)
自殺することばかり考えてしまう女子学生からの電話
ある時ふっと自殺という考えが頭をよぎって以来、そのことが頭から離れなくなった女子学生がいた
彼女は次第に「自分が心の奥底で望んでいるからに違いない」「そうでなければ、そのことばかりが頭に浮かんでくるはずがない」と思い始めるようになる
そこでとうとう思いつめてウェグナーに電話で相談してきたそうだ
ウェグナーは心理学者だけど心理療法士ではなかったため、さてどうしたものかと考えた末にさっきのシロクマ実験の話をしてやったらしい
「ある考えを頭から追い払おうとするほど、かえってそれが頭から離れなくなるんだ」
「だからといって、その考えが真実であるとか、重要であるとは限らないんだよ」
この話を聞いて女子学生は、必死で自殺を頭から追い払おうとしたせいで、かえってそのことばかり考えるようになっている自分に気付いて、ほっとしたそうだ
マイクロスコープ:「皮肉なリバウンド効果」を検証する
各章で説明するポイントが自分の生活にも当てはまることに気づくための課題、マイクロスコープ
今回は自分の頭の中で発生している「皮肉なリバウンド効果」を観察してみること
あなたにも、何か考えないようにしていることはありますか?
もしあるなら、「皮肉なリバウンド効果」を検証してみましょう
何かを考えないようにすると、そのとおり考えずにすみますか?
それとも、ある考えを頭から追い払おうとすると、かえって強く意識してしまうでしょうか
実は今この記事を書いている正にこの瞬間、皮肉なリバウンド効果に襲われている
3つくらい心配事が並行して発生してて、2つは自分がうまくやれば大丈夫なことは分かっている
分かってはいるんだけど、どれか1つをやっているときにも残り2つが心配で気になって仕方がない
パフォーマンスが下がるから集中しようとしても、なかなか頭から追い払うことができないくらい心配だ
まとめ:考えないようにすればするほど気になる
ウェグナーによる数々の実験から、何かを考えないようにすればするほど逆効果で、かえってそのことばかり考えてしまうようになることが分かった
ダイエット中に食べてはいけないと思っているものとか、心配事とか、自分ではどうしようもない問題とか、その対象は様々だった
脳内では2つのシステム、ウェグナーが「オペレーターとモニター」と呼んでいるものがあることも知った
次回予告:コントロールしなければコントロールできる
考えないようにしよう、感じないようにしようと思うほど気になるのなら、いっそ「考えない」なんて思うのをやめてしまえ!
というのが次回のテーマ
思考や感情を抑圧したときにどうなるのか、逆に「考えてもいい」「考えろ」と言われた場合にどうなるのか
色んな実験結果を通して得られた知識を学んでいこう
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