速読と勉強法を用いた書籍読書術の実践と本の書評レビュー

読書家の長尾さん

たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座 実践編 連載

田丸雅智の『たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座』実践編 ─ 5.ショートショート小説を仕上げる

更新日:

田丸雅智氏の『たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座』を実践してショートショート小説を作ってみる連載

いよいよ今回が最終回だ

ここまでの仕上げとしてショートショート小説を書いてみたよ

文字数5750文字、400字詰めの原稿用紙に換算すると15枚分くらいになる

それではこの本を使ってどんなショートショート小説が書けたのか、実際に見てもらうとしよう

題名:願いをかなえる像

「なんだってんだよちくしょー! オレがどんだけ通ってると思ってんだコラー!」

酒に酔った男がわめき散らしながら夜道をフラフラと歩いている

「結局はカネ持ってるやつがいーのかよちくしょー、常連のオレを差し置いてあんなヤツとアフター行きやがってよぉー」

どうやらかなり酒を飲んだようで、ついに壁にぶつかるようにもたれかかり座りこんでしまった

この男、馴染みの店に勤めるホステスに入れあげており毎週末のように店へ通っている

しかし今夜は目当てのホステスに別の客の指名がはいり、その客にアフターデートに誘い出されているのを目の当たりにしてしまったのだ

その場で目に見えて機嫌が悪くなり、最後にあおった強めのヤケ酒で泥酔して今にいたる

「あーもうダメだ ちょっと横になるかぁ」

「おいおい、こんなところで寝るんじゃないよ」

路上で横になろうとしたところへ頭上から声をかけられる

野太い迫力のある声だ

声がしたほうを見ると見知らぬ男が眉間にシワを寄せてこちらを見ていた

「眠いんだよ寝かせてくれよー 天下の往来だどこで寝よーが勝手だろー」

「往来のど真ん中なら寝ようが馬車に轢かれて死のうが知らんがね、そこで横になられると店の入り口が塞がっちまうんだよ」

そういわれて周りを見ると、男がへたりこんでいたのは飲食店の出入口すぐ横だった

寝転がるとちょうどドアを塞いでしまいそうなのは泥酔していても理解ができた

口ぶりからすると、おそらく声をかけてきたのは店の関係者なのだろう

「あー……そりゃぁすまんかったな」

男は重力が何割か増したような気分でのっそりと立ち上がる

酒がまわりすぎて眠気がこらえきれず、半目でときどき完全に目をつむってしまいながら壁に手をつきながらフラフラと歩いていく

どこをどう歩いたのか、そのうち見たことのない路地裏に入り込んでしまった

「あー……まぁここならちっと休憩したって誰も文句いわねぇだろ」

男はふたたび座り込む

「これ、おぬし」

また頭上からの声

こんどはしゃがれたギスギスした声だ

もう顔を上げるのもおっくうになので顔を横に傾け、半分だけ首を捻って片目を開けて声の主を見た

そこにいたのは、夜闇よりも暗い色のローブを羽織り深々とフードを被った男だ

「そのようなところで寝られてはワシの商売に差し障るのだが」

「あー?商売ぃ? あんたこんな路地裏でなんの商売やってるんだぁ?」

そう言いながらよく見ると、しゃがれ声の男は椅子に座っていて、その前には小さな机が一台置かれている

机をはさんで反対側には椅子が一脚、机の上には占い道具のようなものが置かれている

「わしは占い師だ」

「へえーそりゃいいや どれちょっと酔い覚ましにオレを占ってみてくれよ」

「銀貨1枚」

「金とるのかよ」

「商売なのでな」

「まあいいや、もうなんか色々どーでもいい気分なんだ ほれ銀貨1枚」

「たしかに……それで何を占う」

「実はいま気になる娘がいてさあ、どうやったらその娘の気をひけるかってのを占ってみてくれよ」

「恋愛運か……よかろう」

そういうと占い師はドクロの上に乗せた水晶玉を持ち上げ、フードで伏せていた目をぐっと見開き、水晶玉越しに酔った男の目を見た

目の奥──そしてその奥にある頭の中や心を覗き込まれているようで、あまりいい気分はしない

よく見てみると占い師が身につけているものや周りに置いてある道具はどこか不気味で、薄気味悪い意匠のものが多い

「……なかなか難しいようだな」

「あーそうかぁ やっぱりそうかぁ 占いでもそう出ちゃうのかぁ」

「えらくあっさり受け入れるのだな」

「まあなあ……実は相手の娘ってのがオレのよく行く店の子で──まあ女の子が酒の相手をしてくれる店なんだけど、気に入ってしばらく通ってるんだがどうにも脈がなさそうでなあ」

「そうか」

「あーでもなんか占いにまで言われちまったら逆にスッキリしたな」

「諦めるのかね?」

「うーん、もしかしたら諦めるきっかけがほしかったのかもなぁ」

そう言いながらため息をつきうつむいた男の前に、占い師がグッと拳を差し出してきた

開くとその手には血のように鈍く輝く紅い石が握られていた

よく見てみるとそれはただの石ではなく、石を彫って造られた小さな像のペンダントだった

「願いを叶える像……使ってみんかね」

「願いを叶える像?」

「この像を強く握って願えば、どんな願いでもひとつ叶えることができるのだ」

「ははっ、なんだそりゃ 知ってるぜ、そうやってこいつを買わせようってハラなんだろ」

「像の代金はいらん そもそもくれてやるわけではなく、貸してやるだけだ 私にとっても大切なものなのでな」

そう言われて酔った男はあらためて占い師が手のひらに乗せた像に目をやった

なんとも禍々しい像だ──牛か羊のような角をもつ動物に人面と爬虫類を組み合わせたような……

お守りにしては不気味な意匠だが、どこか惹きつけられる不思議な力を感じる

「へへっ、面白ぇ で願いが叶わなかったらどうしてくれるんだい?」

「その心配は要らぬ 手に強く握って願えば確実に願いを叶えることができる」

「どんな願いでも?」

「どんな願いでもだ」

「マユツバもんだな」

「願えばわかることだ」

占い師は無表情のまま断言した

なぜか占い師がいうことは真実なのだという、根拠のない確信がどこかから湧き上がってくる

「わかったよ そこまでいうなら借りてくが……本当に金は要らないのかい」

「代金は要らぬ……が、もし本当に願いを叶えたら必ず返してくれ」

「わかった」

酔った男がそう返事をすると、占い師の男は赤い石の像がついたペンダントを酔った男に差し出す

「くれぐれもひとつ願いを叶えたら返しにくるのだぞ」

そしてペンダントを酔った男の手に握らせる

「叶える願いはひとつだけ その約を破れば取り返しのつかぬ代償を支払うはめになると覚えておくがよい」

「取り返しのつかない代償? なんだいそりゃ」

「約束通り返しにくればよいのだ 知る必要はなかろう」

「まあそれもそうか……うーん、よしちょうど頃合いよく酒も少しは抜けたみたいだ 世話になったな」

「私は夜ならいつでもここにいる 願いを叶えたら……」

「はいはい、返すよ返す」

いぶかしげに思いながらも、酔った男は像を首にかけて路地裏を入ってきたほうへ出た

「あっここのお店よ」

聞き慣れた声がして顔を上げてみると、例の店のホステスと相手の男が路地裏を出てすぐの通りに面した店に入っていくのを見かけた

その瞬間、酔った男は自分の内の深いところで嫉妬の感情がふつふつと湧き上がるのを感じた

気が付くと思わず二人の後を追って店に入ってしまっていた

自分でもなぜこんなことをしたのかわからない

店内は狭いカウンターだけの店で、二人はカウンターの奥側に並んで座っていた

「いらっしゃい」

声をかけてきた店主の顔を見ると、さっき路上で寝転ぼうとしたときに声をかけてきた野太い声の男だ

どうやらこの店は酔った男が入り口に寝転がった店だったらしい

「おや、なんだあんたか……もう酔いは覚めたかい」

「あっ、ああ……さっきは迷惑かけた」

「いやいや、無事なら何よりだ 空いてる席に適当に座ってくれ」

その言葉にしたがって席に座る

カウンターの奥側へ目をやると、どうやらホステスも酔った男に気づいたらしい

しかし呆れるような表情でこちらを一目見たあと、また二人の会話に戻ってしまった

それはそうだろう、わざわざ追いかけて付きまとっているようなものだ

これで決定的に脈はなくなったように思えたそのとき、ふとさっき占い師から受け取ったペンダントを思い出した

「手に強く握って願えば確実に願いを叶えることができる」

そう言った占い師の言葉が脳裏によみがえる

酔った男は思わずペンダントを取り出し、強く握りしめた

「これで終わりなんてイヤだっ……もういちどチャンスをくれっ、話さえできればっ……!

次の瞬間、とつぜんホステスが大声をあげた

「なによ、ちょっとくらいお金持ってるからって偉そうに! アタシを娼婦かなんかと間違えてるんじゃない!?」

店内の他の客はもちろん、野太い声の店主もあまりに突然の出来事に目を丸くしている

相手の男もどうやら怒っているようで、何やら捨て台詞を吐いて店を出て行ってしまった

しんと静まり返った店内

少しして再びホステスの叫び声で静寂は破られた

「ちょっとアンタ! こっち来なさいよ!」

呼ばれたのは酔っ払いの男だった

「もう今日はヤケよ! 朝まで飲む!付き合いなさい!」

「なんだこれ……なんだこの不自然な流れは…… ありえないだろ、こんなの もしかして、本当に像が願いを……」

「なにブツブツ言ってんのよ! 早く来なさいって言ってるでしょ!」

わけがわからないまま酔っ払いの男はホステスの隣の席へ移り、そして二人で閉店まで飲み明かした

別の日、酔っ払いの男はふたたびあの野太い声の店主がいる店に顔を出した

あれからたびたびこの店で待ち合わせてホステスとアフターデートに出ているのだった

「やあ今夜もかい よく続くね」

「いやあそうなんだよ でもさすがにもう懐がキツくてキツくて」

「ほどほどにしなよ」

酔っ払い男の胸には紅く輝くあの像がまだぶら下がっていた

「いちど願いを叶えたら返すとは言ったけどな……」

あの夜のあまりに不自然な展開は、この像が願いを叶えたと思うほか理解できないようなものだった

もしこれが本当に何でも願いをかなえる像なら、もっと願いを叶えたいと思う

しかしあの占い師の言葉が気になり、躊躇してしまう

「取り返しのつかない代償って……なんだろう」

そう呟いたところへ遅れてホステスがやって来た

「こんばんはマスター」

「いらっしゃい」

「ごめんね、待たせちゃった」

「いやぜんぜん大丈夫だよ」

「明日の誕生日イベント、ぜったい来てね お店で常連さんみんな集まって大パーティーするんだから」

「うん、もちろん行かせてもらうよ」

とは答えたものの、正直なところ軍資金が足りない

もっと前に聞いていれば飲み代も少しセーブしていただろうけれど、ついさっき店で翌日が誕生日イベントということを聞かされたばかりなのだ

しかしもしこのイベントをすっぽかせば、ホステスの関心はまた別の客に向いてしまうだろう

そう思うとごちゃごちゃ考えてもしょうがないという気分になってきた」

「よしっ、今夜も飲むぞー! 前夜祭だ!」

「そうこなくっちゃー!」

こうしてまた朝まで飲み明かすのであった

そして次の日、目が覚めた男は青ざめていた

昨夜は予想以上に飲みすぎて、なんとかその場の支払いはできたものの今日の誕生日イベントへはとても行けそうにない

二日酔いも手伝って絶望的な気分だ

「もうこうなったら、あれを使うしかない…… なに大丈夫、ここは家の中だしそもそも像に願ったかどうかなんてわかりっこない」

そしてついに目を閉じ、像を握りしめ、ぶつぶつと願いを唱え始める

「金がほしい……いくら使っても使いきれないほどの金をくれ……」

どんな不自然な展開で大金が降って沸くのか、男はワクワクしながら目を開いた

…………

………

……おかしい

たしかに目を開いたはずなのに、周囲は真っ暗な闇のままだ

起きたばかりなので時間は朝だし、どうも様子がおかしい

「なんだこれ……どうなってんだ……」

男はだんだんと心細くなり、叫びはじめた

「おーい!誰かいないか! おーい!」

すると、遠くにぼんやりと光るものが現れた

薄緑とも淡い青とも見える不思議な色に光るそれは、ゆっくりとこちらへ近づいてくる

「おーい!こっちだ! ここにいるぞー!!」

叫びながら男も光のほうへ駆け出す

しかしその光の正体がハッキリわかるほどに近づくと、男は心臓が飛び跳ねるほど驚いた

「なっ……なんだこれ! 骸骨!?」

目の前にしてもまだ信じられなかった

骨だけの人間と思われるものが生きているかのように歩き、男のほうへ近づいてくる

「くっ、来るなっ……こっち来るなああっ!」

完全にパニック状態に陥った男は這うように元来た方へ向き直った

しかしそのとき何者かに抑え込まれ、地面にうつぶせに押し倒される

「だっ、誰だ! やめろ! 離せっ!!」

必死にもがいて拘束を解こうとするが、これまで経験したことがないほど強い力で抑え込まれていて身動きがとれない

せめて誰に抑え込まれているのかを見ようと必死に首を捻って見上げると、それは先ほどの骸骨だった

まだ少し距離があったはずだが、あの距離を一瞬で追いついたのか、それとも別の骸骨が潜んでいたのか

「いやそんなことはどうでもいい……とにかく早く逃げないと!」

必死にもがくが、骸骨の拘束はまるで解けるような気がしない

そのとき、ふいに別の誰かの腕が首元へ伸び、首にかけたあの禍々しい像を奪っていく

「返せっ! それはオレの……!」「私のものだ」

聞き覚えのあるギスギスした声

なんとか目線をやると骸骨の放つ光に照らされたあの占い師が立っていた

「あんたか! おい助けてくれ! こいつらをなんとかしてくれよ!」

「あいにくだが、そなたを抑えつけさせているのは私の可愛い操り人形でな……これは他ならぬ私の命令なのだよ」

「なっ……ということはお前まさか死霊使い!?」

死霊使い──それは死者の魂をあやつり死体すら蘇らせるという汚れた術を使う魔術師のことだ

「おっ……オレを騙したのか!」

「騙す? 約を破ったのはそちらではないか」

占い師は薄笑みを浮かべながら男を見下す

「叶える願いはひとつだけ、その約を破れば取り返しのつかぬ代償を支払うはめになる……そう私は警告しておいたはず」

「そっ、それは……!」

何かこの場を取り繕う言葉がないか頭の中を探したが、混乱して思考がまとまらない

次の瞬間、とつぜん死霊使いの後ろに巨大な怪物が現れた

それは骸骨と同じ色に光りながら不定形に姿を変え続け、時には絶叫する人面、時には燃えさかる炎のように見える

そして次第にあの像と同じ禍々しい姿へとその形を変え、心臓を握りつぶすほど身体の内に響く叫び声をあげた

「我が主よ……愚者の魂を贄に捧げます……」

死霊使いが怪物にひれ伏し、怪物はゆっくりと男のほうへ近づいていく

「あーーっ!あーーっ!! 誰かー!誰かー!誰かー!!」

断末魔をあげる男の視界の端に、にやにやと薄笑みを浮かべ続ける死霊術師が見える

怪物を見ると腕のようなものが伸び、それはもう視界を覆うほど目の前に迫っている

それが男の目にした最後の光景だった

次回予告

この連載を通してショートショート小説というジャンルに興味が湧いてきたので、ちょっと色々と考えてみたいと思う

そこで次回はショートショート小説の代名詞ともいえる星新一作品を逆に田丸メソッドのワークシートに起こしてどんな構造になっているのか分解してみたい

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